記事の要点
【トレンド】:食品・飲料メーカーのR&D部門で、熟練研究者の経験に頼ってきた処方設計をAIで支援する動きが出てきています。
【メリット】:数千〜数万通りの処方条件をAIが予測・比較検討できるようになり、開発期間短縮や品質安定化が期待されています。
【重要性】:属人的なノウハウをデータとして扱えるようにする取り組みは、同様の研究開発課題を抱える企業にとって参考になりそうです。
「良い処方が見つかっても、もっと良い組み合わせがあるのでは」——そんな迷いを抱えながら試作を重ねた経験がある研究者は少なくないはずです。
【Q】いま現場で起きている「錠剤設計の属人化」の変化とは?
キリンホールディングス株式会社(本社:東京都中野区、以下「キリン」)と株式会社ファンケル(本社:神奈川県横浜市、以下「ファンケル」)は、サプリメントの錠剤設計を支援するAIを共同で開発しました。
錠剤設計では、飲み込みやすさ、輸送に耐える硬さ、体内での溶けやすさといった複数の物性を同時に満たす必要があります。
これらは互いに影響し合うため、最適な処方を導くには膨大な試作と試行錯誤が必要でした。こうした検討は、従来は熟練研究者の経験や勘に頼る部分が大きかったといいます。
【Q】導入すると現場はどう変わる?
今回開発したAIは、過去の研究や製造データを学習し、飲み込みやすさ・硬さ・溶けやすさといった複数の要素を予測できるようにしたものです。
人の手では検討が難しい数千〜数万通りの処方条件の組み合わせも、AIが高速に予測・比較検討できるようになったといいます。
これにより、より早く溶ける・より小さく飲み込みやすいといった品質の向上、担当者によらない一貫した設計品質の実現、開発期間の短縮、原料ロスの削減が期待されるとしています。
なお、本研究成果は2026年4月に国際学術誌「Pharmaceutics」に掲載されており、AIを活用した次世代型の製剤設計技術として、その新規性と有効性が学術的に評価されたとのことです。
【独自考察】よくある失敗と「つまずきポイント」
研究開発の現場にAIを取り入れる際は、「AIに任せれば試作が要らなくなる」と捉えすぎないことも大切そうです。
今回の取り組みでも、AIはあくまで処方条件の予測・比較検討を支援する位置づけであり、人とAIが共に考えることを前提にしていると説明されています。
ファンケル側の研究者コメントでは、良い処方が見つかった後も「さらに良い組み合わせがあるのでは」と迷う場面や、検討を続けるべきか判断に迷う場面があったとされており、AIの予測結果を、こうした判断の材料として位置づけている点がうかがえます。
【Q】どこから始めればいい?
まずは、次の順にチェックすると迷いにくいです。
1. 熟練者の経験に頼っている検討工程を洗い出す
処方設計や条件検討など、特定の研究者の勘や経験に依存している工程がどこかを整理します。
2. 過去の研究・製造データが蓄積されているか確認する
AIによる予測には過去データの学習が前提になります。自社にどの程度のデータが蓄積されているかを確認します。
3. AIの役割を「代替」ではなく「支援」と位置づける
今回の取り組みも、AIと人が共に考えることを前提としています。判断そのものを委ねるのではなく、検討の材料を増やす位置づけで導入を検討すると進めやすそうです。
参考・関連リンク
1. キリンホールディングス株式会社:キリンとファンケル、サプリメントの錠剤設計AIを共同開発“飲みやすさ”と“品質”を両立 開発期間の短縮に貢献(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001559.000073077.html