AIが営業をこなす時代、「会いに行ける人」が最後に残る

コラム

「売り手市場」という言葉を、ここ数年で何度聞いただろうか。2026年3月に大学を卒業した学生の就職率は98.0%。少子化で若手は奪い合いになり、企業は完全に「選ばれる側」に回った。初任給の引き上げ、リモートワーク、そして◯◯ハラスメント対策。どの会社も、懸命に“ホワイト企業”であろうとしている。

だが、AIニュースを追う編集長として、そして自分自身が日々の実務でAIを使い倒している一人として、この構図はそう長くは続かないのではないか——という予感が拭えない。今回は少し踏み込んで、AIが「雇用」と「営業」の現場をどう変えるのか、私なりの予想を書いてみたい。

予想1|AIが普及すれば、新卒は再び「氷河期」を迎える

これまで新人に任せてきた仕事を思い浮かべてほしい。議事録、資料のたたき台、競合リサーチ、データ入力、問い合わせメールの一次対応。いずれも、いまやAIが数分で片づけてしまう。企業が新卒を採るのは将来への投資でもあるが、その「下積みの仕事」自体がAIに置き換わりつつある。

兆候はすでに数字に表れている。日経ビジネスとリクルートマネジメントソリューションズが人事担当者779人に行った調査では、AI活用が進めば採用人数は今より減ると見る人が約4割にのぼった。米国ではさらに鮮明で、ハーバード大学のワーキングペーパーによれば、生成AIを導入した企業ではエントリーレベルの採用が2023年以降、約8割も減ったという。

日本はまだ数字の上では売り手市場だ。だがそれは、少子化による人手不足がAIの影響を覆い隠しているにすぎない、と私は見ている。企業の発想が「人が足りないから若手を採る」から「AIで足りない部分にだけ人を採る」へ切り替わった瞬間、市場は一気に買い手側へ反転する。そのとき、新卒は再び氷河期を迎えるのではないか。

予想2|買い手市場になれば、「◯◯ハラ」という言葉は風化していく

いま企業がハラスメント対策に力を注ぐ理由は、もちろん働く人を守るためだ。ただ正直に言えば、そこには「選ばれる会社であるため」という採用上の事情も少なからず混じっている。人が採れない時代には、“うちはホワイトです”と示すこと自体が武器になるからだ。

その結果、パワハラやセクハラに始まり、ありとあらゆる行為に「◯◯ハラ」というラベルが貼られるようになった。この言葉の量産は、売り手市場という環境が生んだ側面もあるのではないか。

市場が買い手側に反転すれば、企業がホワイトさをアピールする必要は薄れる。若手の側も、声を上げるより先に「仕事があること」を優先する空気になるだろう。そうなれば、流行語のように増えた◯◯ハラという言葉そのものは、静かに風化していくと私は予想している。

誤解のないように断っておきたい。**本当にハラスメントで苦しんでいる人の問題が消えるわけではないし、決して消えてはならない。**風化するのは量産された“ラベル”のほうであって、守られるべき人を守る仕組みではない。

違和感|「空いている日時を、このURLから選んでください」

話は営業の現場に移る。コロナ禍で対面営業が事実上できなくなり、オンライン商談が一気に常識になった。移動がなくなり、効率は確かに上がった。タイパを重視する若い世代にとっては、きわめて合理的な変化だったと思う。

だがその裏で、対面での営業をほとんど経験しないまま、オンラインでしか営業できない人が増えてしまった。

象徴的なのが、初めての営業メールに自分の日程調整ツールのURLを貼り、「この中から空いている日時を選んでください」と送ってくるケースだ。送る側は効率的で親切なつもりなのだろう。しかし受け取る側からすれば、面識もない相手から「あなたが私の予定に合わせてください」と言われているに等しい。

これを失礼だと感じない人が増えていることに、私は危うさを覚える。営業とは本来、相手の時間を“いただく”行為のはずだ。

現実|画面越しの営業は、AIにもできてしまう

そして、ここからが本題だ。画面越しの営業は、実はAIにとって最も置き換えやすい領域でもある。営業メールの文面、提案資料、商談中の質疑応答、その後のフォロー。どれもAIエージェントがこなし始めている。

厄介なのは、それが詐欺にも使われていることだ。香港では、ビデオ会議に映っていたCFOや同僚が実はすべてディープフェイクで、社員が約37億円を送金してしまう事件が起きた。日本でも2026年3月、オンライン面談の相手がAIによるなりすましだったとみられる事例が報じられている。

画面の向こうの相手が本物かどうか、もはや見ただけでは分からない。そんな時代に、オンラインでしか営業できない人は何を信頼の担保にするのだろうか。AIと同じ土俵で、しかも「本物だと証明しにくい」という不利を背負って戦うことになる。

結論|「会いに行ける人」が、AI時代にいちばん重宝される

相手のオフィスに足を運び、同じ空気の中で顔を合わせて話す。名刺を交わし、帰り際のエレベーター前の雑談で本音を拾う。これはAIには代われない。少なくとも、私が見通せる未来においては。

オンラインが当たり前になった今だからこそ、「わざわざ来てくれた」ことの価値は上がっていく。それは誠意の表れであると同時に、自分が本物であることの何よりの証明にもなる。だから私は、これからの企業が本当に欲しがるのは、対面で信頼を勝ち取れる人材だと考えている。

ただし、一つだけ付け加えておきたい。いくら対面で売れても、実務でAIを使いこなせない人は論外だ。資料もリサーチもAIで一気に仕上げ、浮いた時間で客先に会いに行く。AIで効率を極め、人間にしかできない最後の一歩を、自分の足で踏み出す。

その両方を持つ人材こそが、再び訪れるかもしれない“氷河期”を越えていける。私はそう考えている。

参考

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