記事の要点(3行まとめ)
【トレンド】:荏原製作所は、設計開発の知識や現場にある判断の背景をAIで整理し、社内で活用できる知識基盤へつなげる取り組みを始めています。
【メリット】:給水ユニットを対象にした概念実証では、人が整理した設計プロセスの85%をAIエージェントが生成でき、設計諸元間の関係性予測では精度83%を達成したとされています。
【重要性】:ベテラン設計者の判断が退職とともに失われる前に、知識の構造そのものを再設計する動きが、日本の産業機械メーカーで具体的に動き始めています。
「あの設計判断の背景、聞いておけばよかった」——退職後にそう気づいても、取り戻す術はありません。設計の「勘どころ」をどう次世代に渡すか。その答えを、荏原製作所はAIとともに模索し始めました。
【Q】いま現場で起きている「設計開発×知識基盤再構築」の変化とは?
株式会社荏原製作所は、2026年3月1日付で「知識駆動型DXプロジェクト」を発足し、3月16日から本格始動したと発表しました。
このプロジェクトが軸に置くのは「知識」です。設計開発支援システム「EBARA 開発ナビ」と自律分散型AIエージェント基盤「Ebara Brain」を組み合わせ、社内にある判断や考え方を整理し、AIと人が使える基盤として再構築することを目指します。データを集めるだけでなく、知識の構造そのものを設計し直す——そこが、この取り組みの出発点です。
技術的な土台には、東京大学の梅田靖教授が提唱する「デジタルトリプレット(D3)」の概念が採用されています。現実の設備・デジタル情報に「知識空間」を加えた三層構造で、熟達技術者のノウハウをAIが扱える形でつなぐことが目指されています。
【Q】導入すると現場はどう変わる?(具体的なメリット)
「EBARA 開発ナビ」は、設計・開発の思考プロセスを構造化し、暗黙知を段階的に見える形にするシステムです。設計の論理・根拠・アドバイス・例外対応まで記録し、手戻りを減らしながらものづくりの知識を共有することを目的としています。
「Ebara Brain」は、荏原が独自開発した自律分散型AIエージェント群です。社内GPUクラスタ上で動作するオンプレミス型の基盤で、形式知化・ヒアリング・エキスパート・パーソナルという4種のエージェントが、知識の抽出から活用までを担います。
給水ユニットを対象にした概念実証では、人が整理した設計プロセスの85%を形式知化エージェントが生成でき、設計諸元間の関係性予測では精度83%を達成したとされています。数字として確認できる成果が、次のフェーズへの根拠になっています。
【独自考察】よくある失敗と「つまずきポイント」
荏原の発表で明示されているのが「単なるAIツールの導入ではない」という設計思想です。知識の構造そのものを再設計するという方針は、ツールを入れれば解決するという発想とは根本的に異なります。何を残すべきかが決まっていなければ、どんなツールを使っても整理はできません。
4種のエージェントがそれぞれ異なる役割を持つ設計も、見落とせないポイントです。知識を引き出す・精度を高める・業務を支援する・個人と共に成長する——この役割分担が、知識の蓄積と活用を一体化した基盤として機能するとされています。プロジェクトは2028年までに4フェーズで段階展開を予定しており、一度に全てを動かそうとしない設計が、長く続く取り組みの土台になっています。
【Q】どこから始めればいい?(迷ったときの進め方)
最初の一歩は、次の順で確認すると進めやすいです。
1. 「知識」と「データ」を区別して整理する:
業務上のデータと、設計者の判断軸や経験則としての知識は別物です。まず社内にある「知識」の所在を確認することが、今回のプロジェクトから読み取れる出発点です。
2. 対象範囲を絞ってPoC設計をする:
荏原では給水ユニットという具体的な製品領域でまず検証しています。範囲を絞り、数値で確認できる形で成果を積み上げる進め方が、展開の根拠をつくります。
3. 社内知識を扱う環境を先に決める:
Ebara Brainがオンプレミス型として設計されているのは、外部通信を必要としない安全性を確保するためとされています。社内知識を扱う基盤では、どこで動かすかという選択が先決です。
参考・関連リンク
1. 株式会社荏原製作所:本プロジェクトに関するプレスリリース(PR TIMES)
株式会社荏原製作所|プレスリリース(PR TIMES)
2. 株式会社荏原製作所:EBARA 開発ナビ関連リリース
株式会社荏原製作所|関連リリース